編集長の瀬津です。私の周りのいきいきした女性たちを見ていると、「好き」のパワーがハンパないと感じています。そんな折、編集部の安田さんと打ち合わせていたときに、気になることとして「好きなものの見つけ方」というお題をもらいました。 そこで、それぞれの好きなもの道を歩き続けている女性に、その出会いと関わり方を聞いてみるインタビューを企画しました。
今回は、中国茶インストラクターとして、千葉県松戸の自宅サロンを13年間続けている富田直美さんにお話を伺いました。
富田さんとは前職である台湾茶オンラインショップを運営していたときにTwitterで知り合い、お客様としてもお付き合いがありました。私がオンラインショップを閉めてからは、趣味の分野でさまざまな共通点があり敬愛する先輩です。富田さん初zoomによる、オンラインインタビューをお届けします。
1.中国茶インストラクターの仕事
富田さんの仕事である中国茶インストラクターの役割や現在の活動を教えてください。
中国茶インストラクターは、中国茶や台湾茶のまず美味しさを知っていただき、美味しい淹れ方や楽しみ方を伝えることが役割です。私としては、それとともに中国や台湾の歴史、文化についてもお話して、隣国を身近に感じていただくよう心掛けています。
「Salon de Leecha 麗茶」では、新型コロナウイルスの流行前は週2日ほどのレッスンスケジュールや月1回程度の茶会イベント、また2年に一度ぐらいの割合で、生徒さんと一緒に製茶体験も含めた台湾旅行なども行ってきました。この旅行が楽しみで教室を続けている生徒さんもいらっしゃいます。ただ、新型コロナウイルス流行で、現状すべてのサロン活動が休止中です。
確かに、中国茶だと一席5〜6人ぐらいが基本ですから、密は避けられませんよね。
それに加えて、新茶の到着も遅れており、今後の活動を模索中ではありますね。
(※6月中旬から、少人数、感染予防対策をしてのwithコロナでレッスン再開予定とのことです……「Salon de Leecha 麗茶」ブログより)
2.中国文化に恋をする
13年というキャリアは自宅サロンとしても先駆者だったと思います。どのようなきっかけで中国茶と出会い、また今まで続けてこられたのでしょうか?
外語大学で中国語を専攻し、大学3年のときに友人と中国を旅行しました。この旅行での感動が、中国文化にハマる一番大きなきっかけだったと思います。
私も同時期に父と中国に行った記憶がありますが、当時は個人旅行が許されなくて、団体旅行で行けるところも決まっているような時代ですよね。
そう、まだ人民服の人が多くて、町中で解放軍も見かけたり。ただ、当時の日本がバブル前のふわふわした雰囲気がある中、緊張感のある中国の空気とか、近代化されていない、自然や文化の豊かさにとても感動しました。
それで大学の勉強にも積極的になり、中国の仕事がしたいと卒業後は商社に就職したんです。ただ、最初から3年ぐらいしたら留学したいと考えていたので、転職して台湾便の航空会社で1年半広報の仕事をして、それをきっかけに台湾に2年留学しました。
当時はまだ日本に烏龍茶ブームが来る前で、台湾に行ったときに、なんの予備知識もなく初めて凍頂烏龍茶に出会ったんです。その美味しさは感動的で、今思えばそれが始まりだったと思います。
では、そのときに中国茶インストラクターを目指そうと?
いえ、そのときはまだ考えてなかったですね。その後、帰国してから改めて商社に勤め、結婚、出産を機に退職してから時間が出来て、中国のことを勉強していました。そんなときに香港スターのレオン・ライにハマり……
香港四大天王のレオン・ライ(黎明)ですね!ちなみに、私は当時、金城武のファンでした。
そう!あの頃の香港映画は良かったですよね。実はオタク気質なので、ライブを観るためだけに香港に行ったりもしていたんです(笑)
凄い!私は「天使の涙」の金城君でハマって…… レオン・ライも出てましたよね。私も一番好きです! (笑)香港映画の話をし出すとお互い熱くなりそうなので次の機会にするとして、なぜレオン・ライからの中国茶?
2000年前後から日本に中国茶ブームが起きますよね。
確か90年代後半に、烏龍茶で痩せるっていうのが流行ったのが最初でしたよね。実は私が台湾茶オンラインショップを始めたのも2001年です。
当時はリアルな中国茶店で資格を取るのが流行りだしたり。
私のきっかけは、台湾で飲んだ凍頂烏龍茶も忘れてはいませんでしたが、レオン・ライがインタビューで好きなお茶として「モンキー・ピック(MonkeyPickOolongTea)」を上げていたので、どんなお茶だろうと興味を持ち、東京国際映画祭に行った時に上映の空き時間に中国茶店に行ったんです。
その時飲んだのが当時新しかった金萱(きんせん)。今までと違う味わいに感動しました。子供の手が離れて自分の時間が持てるようになったこともあり、 中国茶を勉強してみようと思ったんです。
レオン・ライに導かれた……
まさにレオンがいなければ、今の自分はないです(笑)
お教室や茶会に通ったりする中でどんどんハマっていき、美味しいお茶を探していくうちに師匠である工藤佳治先生が主催する「XiangLe中国茶サロン」を知りました。行ってみたら本当に美味しかったので、こちらでサロンに通いインストラクターの資格を取得しました。
「XiangLe中国茶サロン」を知ったきっかけは、ご友人の紹介ですか?
いえ、インターネット。お茶の友人はむしろこの教室に行きだしてからです。
3.中国茶インストラクターとして
自宅サロンはいつ頃からですか?
2007年4月からですね。当初は同じサロンに通っていた横浜の友人と合同のHPを立ち上げて、生徒さんを募集していました。その2年後に独立して、現在の「Salon de Leecha 麗茶」をスタートしたんです。
公式サイトのプロフィールを見ると、自宅サロン以外にも執筆や通信教育の指導、外部サロンの講師、茶文化講座など、さまざまな活動をされていますが、印象に残っているキャリアはありますか?
どれもみな思い出深いですが、最近では2018年9月に角川書店から出版された『中国茶のこころ 茶味的麁相』の翻訳に携わったことでしょうか。元の本は中国・台湾で活躍されている茶人・李曙韻さんが2011年に台湾で出版した『茶味的麁相』です。
それまでの中国茶の本というのは茶葉の説明や茶の淹れ方、茶の歴史などについての内容が多かったのですが、李さんの本は茶文化と茶の精神性について綴られており、写真もとても芸術的でした。
この本の日本版を出したいという話を、陶作家の安藤雅信さんからいただき、友人の田中優伊さんと浦川園実さんとチームを組み、4年をかけて取り組みました。この仕事を通じて、北京在住の李さんにお会いしたり、上梓後は出版記念茶会を各地で開催したりと貴重な経験をさせていただきました。
4.好きなものの見つけ方
中国茶は富田さんのライフワークですね。
中国茶がライフワークというより……むしろ「中国文化と離れたくない」という気持ちの方が強いかな。
なんか、言い方が“恋”みたいです(笑)それは、中国文化を伝えたいということ?
「伝えたい」というより、「関わっていたい」という気持ちですね。私は本来飽きっぽい性格で、一定期間ハマることはよくあるのですが、すぐ飽きる。けれど中国はずっと続いているんです。
富田さんの話を伺っていると、「好き」のパワーに裏打ちされた行動力に圧倒されます。それでいて、軽やかな印象も受けます。そんな「好きなもの」はどうやったら見つかるんでしょう?
好きなものって、「見つけよう」とするのは難しいんじゃないかな。 見つけるコツではないけれど、私の場合は期間を決めました。中国茶サロンを始めた頃は、まず3年は続けようと決めたんです。
当初地元のフリーペーパーに紹介を載せたりしたのですが、やはり人の家に行くというハードルが高いせいか、半年はあまり人が来ませんでした。 でも、続けていくうちに口コミやホームページを見て人が来るようになってきて、気がついたら3年経ち、それからも続いて今に至る感じです。3年続けることは大切だと思いました。
ただ、お茶のサロンワークだけで儲けるのは難しいですね。商売っ気みたいなのを出すと、どうしても陳腐になってしまうというか。だから逆に、主婦であるという立場を活用して、お金以外の心の豊かさだとか感性を得ることを目的にすると考えています。
茶会が出会いのきっかけになりますし、また美味しいお茶を飲んで頂いたときのお客様の笑顔を見たときには心からやりがいを感じます。
よく好きなものは商売にしない方がいいと言いますが、確かに自分が目的をきちんと自覚していないと、迷ってしまいがちです。
お金儲けが目的でないと言っても、人に教える立場として深い言葉で伝えたいという思いがあるので、現地に行って自分が体験することも大切にしています。
以前伺ったお話では、茶摘みや製茶などの体験もされているんですよね。
まだ生徒さんと行ったことはありませんが、可能な限り一人でツアーに参加したり現地の友人と一緒に産地を訪れ製茶体験をするようにしています。もちろん全行程はできませんが、一部分でも体験するとお茶に対して想像力が働くようになり、意識が変わりました。
昨年はインドの茶園にも行ってみたのですが、中国茶であれ紅茶であれ、水や食べ物などお茶はその土地の文化と深く繋がっているのを実感して、いつも感動です。
4.自分にとっての中国茶教室とこれから
最後に今厳しい状況にある中で、これからの展望も含めて今考えていることを教えてください。
今は新型コロナウィルス感染症の影響で、人と接する機会をできるだけなくし、家にいよう、という時期です。こういう状況になってみると、美味しいお茶を人と集い、分かち合う、ということがいかに幸せか、と改めて思います。
実は私はせっかちで、いろいろストレスがかかるとイライラしがちな性格なのですが、お教室で生徒さんたちとお茶をいただくときだけが無になれていたんですね。
教えることはむしろ自分のための修行で、嫌なことはすべて忘れられる、本当に大事な時間です。 今は毎日一人で飲んでいますが、やっぱりイライラしてしまいます(笑)。 これからも、すぐに新型コロナ前の状態に戻るのは難しいことがわかったので、まずはオンライン茶会など、何ができるか試してみたいと思っています。
お茶には癒しの力があります。一人でいただくお茶もいいのですが、私はあくまでも黒子として、誰かにお茶の美味しさを味わっていただく手助けをずっと続けていけたらなと思っています。夢はお茶淹れ婆さんですね(笑)。
5.インタビュアーから
長年のお付き合いとはいえ、こんな機会でなければうかがえないお話でした。(というか、そういう話が聞きたくて企画しているところもあります)
「好きなものを見つけるのは難しい」 深いです。確かに見つけようと思った時点で、頭で計算してしまうところがあります。 「好きなもので生計を立てるのは難しい」 大いに共感。たまに私も自分の生産性のなさに落ち込みます。 それでも続けられるのが好きなもの……ということなんですね。
そして、最後に喫茶店のマスターとか指導者……じゃなくて、「お茶淹れ婆さん」というのが実にいい!さすがだなあと思いました。 お茶会が再開できる日が楽しみです。