「古賀充 展」at CURATOR’S CUBEにて、古賀さんに聴く

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古賀充展2020 ©Yukiko Setsuカルチャー
※この記事は約 3 分で読めます。

編集長の瀬津です。今回は造形作家・古賀充(こがみつる)さんの個展に行ってきました。

瀬津雅陶堂社長である弟が10年来のファンで、以前、雅陶堂で個展を開催し、その時以来、私もファンになって、個展のたびに少しずつコレクションしています。

今年の個展は、虎ノ門ヒルズのすぐ近くにあるアートスペース、CURATOR’S CUBE(入場予約制)て2020年11月29日まで開催中(11/24火曜休廊)。詳細は上記リンク先をご覧ください。

古賀充展2020 ©office i-sys

今回の作品は、すべて木をつかったオブジェで、今まで見たことのない新しいシリーズ。DMを見たときは、少し地味かなとも感じたのですが、実際に見たら逆に深かったです。

取材のお願いも兼ねて古賀さんにメールしたところ、予約した当日ちょうど会場にいらっしゃるとのことで、作品に関して直接お話を伺うことができました。

1.造形作家:古賀充

古賀充展2020 ©office i-sys
古賀さんは、1980年神奈川県茅ヶ崎市生まれ、2003年多摩美術大学卒業。独自のスタイルで造形作品を発表し、国内各地のみならずパリやロサンゼルスなどでも個展を開催しています。

「日常に潜む美しさや面白さを、 さまざまな素材と手仕事によって作品にしています」との言葉の通り、今も家族で茅ヶ崎の海辺に住み、海に打ち上げられた流木や石など使ったり、自然の造形からのテーマを見つけるなど、オーガニックな作品が魅力です。

今回の個展では、新しい2つのシリーズを展開しています。

2. 本シリーズ

古賀充展2020 ©office i-sys

木の合板ボードを横から見ると、異なる色の重なりが本に似ている…というのは誰でも思うところですが、ここからの発想が古賀さんワールド!

「“読み込んだ本の表紙が浮き上がっている感じ”を表現するために、紙よりも薄い板を積層して、表紙だけ別に削り出して作っているんです」

淡いカラーもどこかノスタルジック。

「表紙の色だけでなく、紐(スピン)の色やねじれ具合も意識して作りました」

そのせいか、見ていると学生時代に読んでいた本を思い出します。

古賀充展2020 ©office i-sys

当然、表紙の大きさは本体部分より大きくなるのですが、それを感じさせない絶妙なバランス。計算のない視覚トリックで、あまりに自然すぎて違和感がありません。そのせいか、ぱっと見たときのインパクトは少ないのですが、あれ?あれ?と見ているうちに、技巧の凄さがわかってくる、じんわり効いてくる作品です。

古賀充展2020 ©office i-sys

3冊バージョンは、3冊がくっついています。注目点は下部で、微妙に本のサイズが異なって、階段状になっているバランスが気持ち良いです。

古賀充展2020 ©office i-sys

もうひとつのバリエーション、古賀さんいわく「日めくりカレンダー(日付なし)」…ちなみに、横にしておくとメモパッド感があります。こちらも削り出しの技術が凄いのですが、どこに架けても違和感のないナチュラルさが魅力です。

3.動物シリーズ

古賀充展2020 ©office i-sys

DMで作品を見たとき、ぱっと思い出したのは、若い頃大好きだったジョージア・オキーフの骸骨シリーズ。

でも、一体これは何を使って、なんでこういうことになっているんだ??というのが正直な印象でした。

古賀充展2020 ©office i-sys

それに対して、古賀さんがすぐに答えてくれました。

「自然のものって、左右対称ってありえないじゃないですか。でも、真ん中で割って開いたら左右対称になるのに気づいたんですね」

材料は流木。古賀さんは家の近所の海岸に打ち上げらた流木で、今までもさまざまな作品を作って来ていますが、今回はいわば“流木の開き”です。

「面白い形の流木を、丁寧に半分に割ってつけるのですが、もとの形状が対象ではないのでそれをきれいに分けるのが難しかったですね。でもツノの部分などは、違うねじれ方をしているのが面白かったりします」

材料の流木と、組み合わせ方はこんな感じ。

古賀充展2020 ©office i-sys

材料となる流木が打ち上げられるので、台風が来るたびに喜んでいたそうで、「台風で喜ぶなんて、僕ぐらいですよね」と笑っていました。

これらの作品の発想は、どんなところから生まれるのでしょうか?

「このシリーズに限らず、すべての作品は素材の出会いから始まっています。今回の本シーリズは合板との出会いであり、動物シリーズは拾ってきた流木の形にインスピレーションを受けて発想が膨らみました」

日光の差し込む明るいフロアに並ぶ、流木の骸骨。一つ一つに味わいがあり、イメージが広がります。

4.古賀充作品の人気とは(私感)

古賀さんは、私の大好物である“マニアックで超絶技巧”の作家さんの一人です。

個展でお会いするたびに「今回、たくさん作ったんですけど…」と言うのですが、期間後半になるとほとんど売約済みという人気ぶり。今回も11月14日から開催していて19日にうかがったのですが、動物シリーズはほぼ完売していました(汗)。

あくまでも自然から生まれた発想を広げ、それを表現するために緻密な技術を極めていく古賀作品。実際に見ていると、その優しいエネルギーに包まれて、どこか懐かしく、穏やかな気持ちになれます。そのせいか、家に飾っていても気持ち良く、個人的には(空気清浄アートだなあ)といつも感じます。

今回は本シリーズから、“赤い本”を購入しました。

古賀充展2020 ©office i-sys

会場の奥に飾られていた赤がぱっと目について、思わず吸い寄せられるように近づいたら、古賀さんがぜひ手にとって見てくださいと渡してくれたのです。

軽くしっくりと手に馴染み、木なのになぜか“単行本”感が半端ない。学生時代に戻ったような感覚になって、手放せなくなってしまいました。

タイミングがあったら、ぜひ会場で古賀作品の空気を体感してください。(価格もやさしいです)

 

※古賀さんのこれまでの作品は、オフィシャルサイトで見ることができます。

カルチャー
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この記事を書いた人
瀬津 由紀子

1963年東京生まれ。家業である古美術商・瀬津雅陶堂を手伝う傍ら、フリーライターとして活動。講談社、世界文化社の婦人誌を中心にインタビュー、アート、旅行などの取材、ライティングを行う。
2000年より株式会社オフィス・アイシス代表取締役。「エイルナビ」編集長

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