2020年春、テキサス州ボウモントのサウスイースト テキサス美術館(Art Museum of Southeast Texas)にて、一人の日本人アーティストの個展が行われました。
タイトルは「Celestial Garden(光の庭)」
白い作品を中心に、カラフルな水彩画、広い展示室をいっぱいにするような立体作品など。バリエーションに富んだ作品たちはどれも明るく、喜びに満ちています。
現在、アメリカのテキサス州ダラスを中心に制作活動を行っている造形作家・原田佳奈は、幼い頃から絵を描き始め、4歳にてそれを自分の生きる道と宣言して以来、一途に製作を続けています。それこそが彼女にとっての*喜び*そのもの。
作品はすでに多くのコレクター、美術館に所蔵され、展覧会のオーダーも続いているそうです。
今回新型コロナ流行で、バーチャルになった展覧会もあるという中でのリモートインタビュー。東京に生まれ、人生の中で何度もアメリカと日本を行き来しつつ、今に至る彼女のライフヒストリーと製作への思いを聞きました。
原田佳奈(はらだかな)
東京都生まれ。子供時代の数年をニューヨークのロングアイランド にて過ごす。お茶の水美術学院にてデッサンや日本画を学び、1990年代後半より、透明水彩およびアクリルの平面作品、ダンボールを素材とした立体作品などで、ニューヨークのマンハッタン、ソーホー、東京の代官山にてギャラリーや展覧会に出品。
2002年ごろより、フォームシートを使った立体作品として、鳥かごシリーズ制作を開始。2004年のダラス近代美術ギャラリーでの個展を皮切りに、毎年コンスタントに米国内のギャラリーで展覧会を開催。大きな反響を得ている。
*公式サイト:KANA HARADA
*公式プロフィール(履歴):KANA HARADA/CV
1.アメリカで活躍するまで
1-1.「絵を描くために生まれてきたから!」
1歳のときから、お絵かきが大好きだった娘。その子が4歳のときに、仁王立ちして「佳奈は絵を描くために生まれてきたから!」と宣言したとき、お母様はどう思ったのでしょう?
母は「そうか、この子はそういう子か」と受け入れてくれて、私が生まれてから描いてきたものを、すべていくつものダンボールに取っておいてくれたの。4歳の宣言に至るまでの道のりには、絵を描くことでの何ものにも変えられない*喜び*があったのだと思います
そして、その喜びは紛れもなく両親の愛によって育まれたのです。以来、一途にアーティストとして生きてきた佳奈。それは決して平坦な道だけではありませんでした。
1-2.アメリカと日本:文化の違いを感じた幼少期
小学4年から中学2年まで、佳奈は家族でアメリカに移住。その間の体験は「楽しいことばかり!」でしたが、父の仕事の都合で泣く泣く帰国。日本の美大受験を目指します。
帰国後の生活は、思ったものと少し違いました。「個性を大事にする」ことは、両親の教えであり、アメリカの文化そのもの。自由にのびのびと育っていた佳奈にとって、日本の中学は考え方も少し窮屈で、戸惑うことも多かったようです。
その違和感のまま、大学受験に向けて夜間の予備校に通いますが、やがてアカデミックな受験勉強より製作がしたいという思いが強まり方向転換。
大学行っても、絵描きになることは教えてもらえないと気付いたんですね。
プライベートで得意な英語を教えながら、自由に、気ままに製作を続けることにしました。この決断が、新しい運命の扉を開けます。
1-3.パートナーとアメリカへ
佳奈の明るくて親切なレッスンは人気を呼び、生徒さんの数も増えていきました。ある日、生徒さんから誘われたパーティーで紹介されたのが、外資系企業に勤める竹村誠さん。アメリカが好きだったり、趣味でイラストを描いたりと話が合い、お付き合いが始まりました。
3,4年たったころ、会社から竹村さんに本社のあるアメリカ研修の話が出たのをきっかけに結婚し、1ヶ月後には大好きなアメリカへ。
そのときは嬉しかった!それまで特に意識していなかったのですが、やはりどこかでアメリカに帰りたい気持ちがあったのだと思います。
ダラスに4年近く滞在して、帰国して3年後、また1年間の予定でダラスへ戻ります。しかし、帰国予定だった1年後のタイミングで本社に招かれ、ついに本格的に移住することになりました。
彼も性格的にアメリカの仕事が合っているし、ダラスに来てからグリーンカードも取りました。今はアメリカにいるときの方が落ち着きますね。ここは自分のいるべき場所という感じがします。
では、彼女自身の製作活動はどうだったのでしょう。
もともと有名になるとか売れるとかより、ただ作るのが好きで楽しいんです。作品をたくさんの人に見てもらいたいなと思いつつ、一人だとつい製作する方が優先になっていて。
そんな中で、応援してくれる友人や知人が動いてくれて、さまざまなギャラリー、コレクターと知り合うことができました。いろいろと教えてもらったり、少しずつ展覧会の声がかかったり、メディアでも紹介される機会が増えていきました
ダラスでは、ほかにも大切な出会いがありました。それは、大きなお家とふわふわなアレ。次では、彼女のアトリエを紹介していきます。
2.原田佳奈のライフスタイル
2-1.原田佳奈のアトリエ
佳奈の住まい兼アトリエは、ダラスのメインストリートにある古いロフト。ダラスに移住した当初から、同じ建物に住んでいます。
ダラスならでは! ともいうべき広いスペースと高い天井のあるロフトは、佳奈の作風にも影響し、より大きな3D作品を作るようになりました。
作品が飾られたセンスの良い自宅は、大都会の真ん中にあることを忘れ去れるような静かな空気を感じます。
また、2002年に出会ったふわふわなアレ、つまりフォームシートは、彼女の作品の代表的な素材として、さまざまな形、色、で彼女の世界を作り出しています。
ダラスの画材店で子供用のクラフト材料として販売されていたのが、フォームシートとの出会い。今まで見たことがなかったので、すぐ気に入って使い出したんです。
フォームシートの魅力は、非常に柔らかく、軽く、しなやか。紫外線にも耐性があり、切断して作業するのが簡単です
2-2.原田佳奈の道具
小さなピースまで、その繊細な世界をすべて手作業で作り出す、まさに魔法の道具。お気に入りは真ん中の隈取り筆。「この世で一番好き」だとか。
サイン代わりに、いつも作品のどこかに隠す「佳」の字も手書き。
2-3.原田佳奈の一日
アーティストの一日を教えてください。
基本ウィークデーも週末も関係なく、大体朝5時半頃迄には起床。両親や森羅万象に朝の感謝と挨拶をし、身支度、軽いストレッチ等々の後、パパッと家のことをやっつけ、ニュースを見ながら朝食。
その後、必ず仕事への感謝の祈りをしてから制作現場へ。
昼食は食べないので、軽くコーヒーブレイクとルームバイク、又は散歩ブレイクを何度か入れつつ、特にパソコンワークがない日は一日中制作しています。
新型コロナ感染防止の為、別の部屋で在宅ワークをしている夫と、大体夕方6時前後にキッチンで再会し、この季節はキンキンに冷やしたワインを頂く、そんなとこでしょうか。宵っ張りになるのは簡単なのですが、やはり色は昼間の自然光で見たいので、若い時からなるべく早寝早起きを心がけています
2-4.原田佳奈にQ&A
Q.自分の作品で表現したいことは何ですか?
生きる喜び。命を頂いている、と言うことの途轍もない喜び。
小さな小さな日常の喜びから壮大なロマン溢れる喜びまで。私を生かしてくれるあらゆる命への感謝と地球の平和への祈りを込めて、表現してゆきたいです
自分では人に恵まれた人生だと思っていて、常に感謝を感じています。
また、アートというと、よく「ダーク」な方が本質を描いていると捉えられがちですが、ダークの一歩先にある輝いたものこそ本質であり、そこを軸とした作品を描きたいと願っています。
Q.これからの活動予定は?
いろいろなお声がけを頂いていますが、今後も美術館での個展を中心にさまざまな活動していきたいですね。
Q.日本に向けてメッセージはありますか?
海外に住んでいるからこそ、日本人の国民性の素晴らしさ、素直さ、レベルの高さがわかります。私自身、その恩恵を感じることがよくあるんです。
両親から言われてきたことを思い出すたびに、自分の中にある日本の“和”の精神を実感し、その一員であることに心から誇りを感じています。
現在の思いもよらなかった時代を、世界がひとつになってなんとか乗り越えていきましょう! 心から感謝とエールを送り続けています。
4.まとめ
編集長ブログ「自慢の同級生」でも書きましたが、実は佳奈は同級生です。なので、4時間近いZOOMのあとも、妥協のないメールのやりとりが続いて、画像もいっぱいあって、嬉しい悲鳴でした。
ファンシーでありながら、どこか重厚。精密なパーツと大胆な造形。そこには、佳奈自身の自由な感性と、それを表現する確かなテクニックがあることがわかります。
両極なものが内在し*喜び*の方向へきらきら光っていくような、見ていると思わず笑顔になるハッピーな作品たち。
本来、その作品も一緒に紹介するつもりでしたが、佳奈が送ってくれた作品の画像(撮影はダンナさま!)がどれも素晴らしく、また一点毎にパーツが面白くて、できるだけたくさん紹介したいと思ってしまいました。ただ、そうなるととても長いページになってしまう。
ということで、相談した結果……作品をコラムで連載することになりました。
佳奈は本来言葉もとても豊かな人ですが、作品について語ることはあまりしていません。
でも、話を聞くといろいろと感動のエピソードがあるので、お願いして貴重な作家コメントをつけてもらいました。ついでに、ダラス便りも届くかも。来週から集中連載の予定です。