六本木ヒルズ・天空の美術館で楽しむ「未来と芸術展」といろいろ

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「未来と美術展」森美術館カルチャー
※この記事は約 7 分で読めます。

森美術館と言えば、六本木ヒルズ森タワーの53階に位置する天空の美術館。現代美術を中心に、話題となる展覧会を次々に開催しています。

2020年3月2日まで開催中の「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命ーー人は明日どう生きるのか」。AI(人工知能)やバイオ技術、ロボット工学、AR(拡張現実)など、テレビやネットで度々紹介される最新技術とアートが融合することで、どんな未来世界が開かれていくのかが紹介されています。

当初は(難しそう……)と敬遠してたいのですが、ある出品作品を知って、現物を見たくなったので行ってきました。

※当記事に掲載の作品画像は、一部を除き筆者が撮影したもので「クリエイティブ・コモンズ表示 – 非営利 – 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。

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1.森美術館のわくわくするアプローチ

六本木ヒルズの53階にある森美術館ですが、エントランスは3階です。そこまでは小さなエレベーターか、らせん階段。このアプローチが、別世界に行くようなわくわく感を演出してくれます。

チケットを購入して、スタッフが最初にガイドしてくれるのが黒いカーテンの中。

期間延長し2月29日までの公開ですが、特別シアターとして、『AI×美空ひばり「あれから」』を上映しています。

NHKがAIを使って再現した美空ひばりさん。声の再現には、データとして日本コロムビアが保存する音声トラックと、長男加藤和也氏が所蔵する肉声テープが使われ、歌っているのは秋元康作詞プロデュースの新曲「あれから」。

紅白歌合戦にも登場したAIひばりさんを、4Kのスペシャルバージョンで観ることができます。スクリーンで観るAIひばりさんは、テレビより更にリアルで、最後の語りは何度聞いても泣けますよ。

うるうるしつつ部屋を出ると、エレベーターに乗って一気に52階まで。そこから吹き抜けの空間をエスカレーターで53階の会場に入ります。

森美術館

2.「未来と芸術展」の会場構成

会場は、順に「都市の新たな可能性」「ネオ・メタボリズム建築へ」「ライフスタイルとデザインの革新」「身体の拡張と倫理」「変容する社会と人間」の5つのセクションに分かれています。

会場に入った途端(これは理解するものじゃない)と直感。

文系の私には難しすぎて、作品のキャプションすら、もはや宇宙語の世界です。それよりも作品を眺めて、まず未来の可能性を知ろうと気持ちを切り替えたら、俄然面白くなりました。

それぞれの会場を紹介します。

2-1.「都市の新たな可能性」

ひとことで言えば未来都市計画。若い学生さん達が熱心に観ていました。海上、地中、空間をはじめ、現在の東京の変容などアイデアがすごいです。

2-2.「ネオ・メタボリズム建築へ」

建築設計を中心とした、まさに、SF映画の世界。つい先日甥と行った「STAR WARS」の展覧会と重なります。

コンピュータが作り出す、人間が発想し得ない設計とか、3Dプリンタが活躍する分野です。

2-3.「ライフスタイルとデザインの革新」

服飾、インテリア、食品など、ライフスタイルに関わる品々がデザインされていました。

服飾でもコンピューター&3Dプリンター大活躍ですし、人工食品や、家具などにすらバイオテクノロジーのが応用されています。

アイボをはじめとするロボットペットも勢揃いしていました。一番身近で面白いセクションです。

2-4.「身体の拡張と倫理」

このセクションではロボット工学とバイオ技術がいかに人間の身体の可能性を広げるか、がテーマです。

義肢のように補う物だけでなく、健常な身体を人工的に変化させたマヌカン、亡くなった人の一部を再現する作品(ゴッホの耳)、昆虫の一部に人間の一部を埋め込んだコラージュ作品など若干気味の悪いものも並んでいます。

それらが実現することで、どこまで人間の身体に手を加えて良いのか、のような倫理感にも訴える構成になっています。

2-5.「変容する社会と人間」

可能性としての未来を考えさせられるセクションでした。

テクノロジーが発達した結果、現在では想像もつかない社会が出現するかもしれない。たとえば看取りロボット、たとえば夫婦以外の遺伝子を持つ子供の共有をテーマにした作品。手塚治虫「火の鳥」による生命に関しての問いかけ。情報のあり方をモチーフにした作品。……など、急激な社会の変化をリアルに実感し、考えさせられるセクションです。

3.「芸術と未来展」の感想—印象的な作品たち

最初はSFの世界に紛れ込んだような気持ちになった「芸術と未来展」ですが、あとから思い出すと印象深かった作品がいくつもありました。

その中でもインパクトの強かった作品をご紹介します。これから行かれる方は、ぜひ実際にチェックしてください。

3-1.ミハエル・ハンスマイヤー《ムカルナスの変異》2019年

ミハエル・ハンスマイヤー《ムカルナスの変異》2019年

ミハエル・ハンスマイヤー《ムカルナスの変異》2019年

美しい筒状の構造物が、シャンデリアのようにいくつも垂れ下がった美しい作品。長い管は、床に届くぐらいで、一つの部屋を構成しているかのような大きなものです。

“ムカルナス”は、イスラーム建築の装飾様式のひとつで、作者ハンスマイヤーはこの装飾様式を参考に、コンピュータのシミュレーションによる“人間では到底作図できないようなデザイン”を生み出しています。

3-2.ダーン・ローズガールデ《ロータス・モデル》2010-2011年

ダーン・ローズガールデ《ロータス・モデル》2101-2011年

ダーン・ローズガールデ《ロータス・モデル》2101-2011年

入り口がカーテンで仕切られた暗い個室に、ひとつだけ展示された銀色のボール状の作品。近づいて手をかざすと、花開くように変形して発光します。

素材にスマートホイルというポリエステルを使っており、人の熱を感知して変形。同時に照明が点くことで、光と影が万華鏡のように動く光の模様を作り出すのがとても綺麗でした。

建築家でもあるローズガールデは、巨大なドーム型の構造体《ロータス・ドーム》を作成しており、そのモデルとなったのが今作。壁にはドームの写真もあります。

3-3.OPEN MEALS《SUSHI SINGULARITY》2019年

OPEN MEALS《SUSHI SINGYULARITY》2019年

《SUSHI SINGYULARITY》2019年
※右下の寿司画像の出典:OPEN MEALS

寿司好きの私は、「ライフスタイル」セクションに展示されているこの作品を知ったことが、今回の展覧会鑑賞のきっかけとなりました。

電通をはじめとする企業、専門家によるプロジェクトチーム「OPEN MEALS」による作品で、寿司を構成するデータをデジタル化し、インターネットとつながることで広がる可能性を予見しています。

データの転送で場所を選ばすに同じ味が作れたり、またいろいろな人によって編集や共有されることで、今までにない発想の寿司がデザインされるかもしれません。

また、来客が前もって身体に関するデータを登録することで、体調に合わせた栄養素を注入し、パーソナライズされた料理を楽しめます。

ユニークな四角い寿司は、世界で初めて開発された、デジタル上で食をデザインするシステムによるもの。画像上左から:雲丹、マグロ、カッパ巻き、蛸。下左から:イカ、穴子、蒸し海老、出汁スープ。

作品はあくまでもコンセプトマシンですが、実際のレストランは2020年内に日本国内でオープン予定とか。食べたいかどうかはともかく、その発想に圧倒されました。

3-4.やくしまるえつこ《わたしは人類》2016/2019年

やくしまるえつこ《わたしは人類》2016/2019年

やくしまるえつこ《わたしは人類》2016/2019年

ミュージシャンで、アーチストとしても注目されているやくしまるえつこの作品です。

「人類滅亡後の音楽」をコンセプトとし、25億年前から生息すると言われる微生物の塩基配列を基に作曲され、人類滅亡後にも残る記憶媒体として遺伝情報に変換し、遺伝子組み換え微生物のDNAに保存しています。

記憶媒体というとテープからビデオ、CD、DVD、USBと変化していますが、バイオテクノロジーによってついにDNAにまで!と軽く目眩が感じます。

展示室には、冷蔵庫。シャーレの中に、やくしまるさんが描いた顔。この緑の部分が、曲「わたしは人類」を記憶したDNAを持つ微生物です。テクノポップで、やくしまるさんの声はアイドルのような可愛らしさ。先端科学とアイドルという異質に感じるものが、なぜかやたら胸に染みました。

やくしまるさんは、この作品で2017年に世界最大の国際科学芸術の祭典 アルスエレクトロニカ・STARTS PRIZEグランプリを日本人で初めて受賞しています。

3-5.ディムート・シュトレーベ《シュガーベイブ》2014年ー

ディムート・シュトレーベ《シュガーベイブ》2014年ー

ディムート・シュトレーベ《シュガーベイブ》2014年ー

バイオアトリエと称される一角で、《わたしは人類》の隣に、その音楽を聴いているかのように陳列されているのが、「ゴッホの耳」として話題になった作品、シュトレーベの《シュガーベイブ》。

生きた細胞と人工物でできた「生体芸術作品」です。

ゴッホの自画像や玄孫の頭部スキャン情報をもとに、耳の形を3Dバイオプリンターでポリマー製の培養基材ので作成。

そこに子孫の耳の軟骨細胞やDNAなどで培養した細胞を注入して作り出しており、マイクが置いてあるのは、この耳が実際に音に反応する仕掛けでもあります。

歴史上の人物を子孫の細胞を活用されて復活させるのは、現在のバイオテクノロジーの究極とも言える作品で、遺伝子操作やクローン技術に繋がる“怖さを含んだ美しさ”を感じました。

4.会場出たら買い物、眺望、グルメ

近未来から超未来まで、知らない世界の情報に圧倒されたら、会場出口の正面のグッズショップで頭を冷やしましょう。

森美術館 museum shop

今回の展覧会オリジナル商品だけでなく、さまざまなアートモチーフを使ったグッズがおしゃれです。Tシャツやアクセサリーなどのほか、食品も扱っています。私は思わず、会場限定のやくしまるさんのCDを購入してしまいました。

エスカレーターで52階に戻り、通路を巡ると絶景が!本格的な展望施設やギャラリーもあります。

森タワー52階

また、せっかく来たならグルメも楽しみたいですね。美術館を出た後、52階に下りると展覧会出口正面にミュージアムカフェ「THE SUN」右方向にレストラン「THE MOON」「THE MOON Lounge」が並んでいます。

「THE SUN」は明るく、フードコートを思わせる気軽なカフェ。軽食を中心としたメニューで、同フロアのスカイ・ギャラリーのイベントとのコラボもあります。

いずれのレストランも素晴らしい眺望が楽しめますが、この日は時間が遅かったため「THE MOON Lounge」にて滑り込みでランチメニューをいただきました。

THE MOON Launge

平日の昼間だったこともあり、美味しくゆっくりとした時間。レストランだけで来ることもアリです。

5.「芸術と未来展」まとめ

学生時代、SFにハマっていたことがありますが、現実はもはやその頃のSFを超えていました。

全体の印象をひとことで言えば、“境界がなくなる”。建築は天地や地上地下の境界があいまいだし、バイオテクノロジーは生物と物質の境界がなくなってきているよう。

ただ、いずれも現実との地続きで発想された作品です。来る前は理解できるかどうか不安だったものの、リアルに作品の前に立ってみることで感じる何かがありました。

「未来と芸術展」というタイトルの通り、見ておくと未来に役立つと思える展覧会です。

さらに場所は六本木ヒルズですから、地上に下りればレストランもショッピングも楽しめます。

 

★展覧会情報★

「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命ーー人は明日どう生きるのか」
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
会期:2019年11月19日ー2020年3月29日
※10:00~22:00(最終入館 21:30)
※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)
※ただし11月19日(火)、12月31日(火)、2月11日(火・祝)は22:00まで(最終入館 21:30)

カルチャー
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この記事を書いた人
瀬津 由紀子

1963年東京生まれ。家業である古美術商・瀬津雅陶堂を手伝う傍ら、フリーライターとして活動。講談社、世界文化社の婦人誌を中心にインタビュー、アート、旅行などの取材、ライティングを行う。
2000年より株式会社オフィス・アイシス代表取締役。「エイルナビ」編集長

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