こんにちは、編集長の瀬津です。今回は、横田茂ギャラリーにて現在開催中(2020年11月13日まで)のドナルド・エバンス展を紹介します。エバンスを教えてくれたのは、ギャラリーオーナーである叔父・横田茂です。
海外を含め、今後エバンスの展覧会は予定されていないとのこと。ご興味がある方はゼヒお運びください。
1.横田茂ギャラリーのこと
私の父・瀬津巖がニューヨーク・SOHOのギャラリーに影響を受け、それまで会社の地下で運営していた現代アートの【雅陶堂ギャラリー】を、1980年代に竹芝の鈴江第3倉庫で移転しました。
雅陶堂のスタッフとして、その運営に携わっていた叔父がその後独立し、同じ場所で【横田茂ギャラリー】を運営。さらに、独自企画の展覧会やアーティストブックの出版を手掛けている東京
2.ドナルド・エバンス(Donald Evans)について
画家ドナルド・エバンス(1945-1977)は、アメリカのニュージャージー州で生まれました。幼い頃から切手を蒐集するだけでなく、自分でも空想の国の切手を水彩で描いています。
コーネル大学に進学し建築学を専攻。卒業後は、ニューヨークの著名な建築家・リチャード・マイヤーの事務所で働いていましたが、4年後に退職して世界各地を廻りました。
その後オランダのアムステルダムに移住し、水彩で小さな切手に自分の世界を表現するようになりました。
切手に描かれている世界はすべて空想とはいえ、現実に彼が見聞きしたものからインスピレーションを受けて表現したもの。小さく、可愛らしい切手ながら、その中に彼が表現しようとした物は、その哲学、価値観、美意識と、無限に広がりを見せます。
切手製作のため、彼は42の空想の国を作り、その国の歴史、地理、気候、通貨、風俗を記録。アルファベット順に整理された国ごとに、それぞれの切手を空想の発行順に並べ、シリーズでは代表となる切手を掲載。切手ごとに記号で製作場所、製作年月日、署名のあるなし、用紙の種類、(手打ちの)ミシン目数、またその切手に合わせた手作りの消印などをすべて記録しました。作品である切手に関しては、展覧会歴や所蔵者なども残しています。
この作品の記録を“Catalog of the World”と名づけ、3カ国語で16部制作。このカタログは修正を加える中で最終的に330ページにも及ぶ大作となりました。
エバンスは31歳の若さで、アトリエの火事によって早逝します。描かれた切手はほぼ4000枚、カタログの最後の記入は亡くなる2日前のことだったそうです。
叔父がギャラリーで数多くのアーチストを紹介する中で、このドナルド・エバンスとジョセフ・コーネルは個人的にハマった2大アーチストです。ひさびさにエバンスを展示すると聞いて、2020年10月28日にギャラリーを訪れました。
3.移転した横田茂ギャラリーとエバンスの作品
建物の老朽化などの理由で、横田茂ギャラリーは以前の倉庫から、近年現在の場所に移転しました。
薄情な姪(汗)である私は、今回初めて新しいギャラリーを訪れました。
エバンスの切手は、専用のストックブックのようなキャンバスにはさまれています。本物の切手と同じ小さなサイズに精密に描かれた情報量の多さに圧倒されます。
吹き抜けのフロアに点在する、エバンスの切手たち。個人的には、懐かしい再会となる作品も多かったです。一点一点が、ずっと眺めていたくなるような、静かでやさしい世界です。
しばらくして、新ギャラリーのとてもスタイリッシュな建物に感心していたところ、迎えてくれた従兄弟の聡氏(東京
「ここ、もとライブハウスで、そのときの造りを活用してるんですよ。知っていると思うけど、元インクスティック鈴江ファクトリーなんです。そこの一段高くなっているところがステージで……」
なんと、バブル世代には涙ものの懐かしい名前!確かに、妙に覚えのある気配がすると思っていました。(私は来たことはありませんが、あの時代ならではの空気感ということです)
応接コーナーも急な階段を上った吹き抜けの2階……「ここVIPルームだったらしいんですよね」
屋根が高く、外光も採りこむ白い空間は、以前のギャラリーの面影もあり、叔父の世界観がよく表れています。
ショーケースには、フランス語版の“Catalog of the World”(コピー)が展示されています。今回は珍しいA4ポスターも若干数販売しているとか。
自宅にいる叔父と電話で話したら、「今回は最後だと思っているから、お客様に観ていただくことはもとより、エバンスに観てもらいたい展示なんだ」と申しておりました。